リサイタルのご報告 後編
開演まで約1時間半。おにぎり1個・チョコレート1片・コーヒー、そして栄養ドリンクを最後に流しこみ、ひとりお部屋にこもって静かな時間をすごしました。 楽譜や爪のチェックをして、あとはぼんやり。。。何も考えないでひたすらぼんやり。。。 自由に弾こう。思いきって弾こう。聴いてくださる全ての方の心に向かって音を放とう。。。と、何度も自分に言い聞かせました。 開演45分前に着替え開始。お客様が続々と来てくださっているというお知らせがあって、背筋が伸びます。 18:05、5分押しで開演!演奏スタート! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ここにupする前に、何度も演奏中のことを文章にしてみようと試みましたが、とうとうことばにすることができませんでした。 実は、全体を通してほとんど記憶がないのです(笑)。練習のときにこう弾いたらどうだろう?と、いくつもあったアイデアも全部吹っ飛んで、計算も計画もなくただ歌っていただけでした。空間に映像を映し出すように、絵を描くように、前の音を追いかけてひたすら音の珠をつないでいくだけでした。 私は、「演奏させていただいた」のです! お客様からは、受付・ロビー・客席・プログラムの構成・舞台照明にいたるまで全てがとても優しく心地よい雰囲気でした。と言っていただきました。制作・舞台スタッフの細やかな心配りがお客様に伝わり、お客様が会場全体を落ち着いた清々しい空気で満たしてくださっていました。その空気が、自由で大胆な演奏へと導いてくれました。 共演者の方々の包容力とおおらかさに守られ、生徒さんたちは舞台の表と裏の両方で支え、私を安心させてくれました。 私は、なんの心配も躊躇もなく、ただただ夢中で、音楽の中に溶けていました。 30年という歳月を思うこともなく、あったのは『今』だけでした。異次元のスポットにできた時空の海の中で、「自分のすべてをどれだけ投じても、まだまだ足りない」・・・そんな思いでいっぱいでした。 アンコールの「月夜の海」を奏でる時になって我に返りました。感謝の気持ちがあふれました。この瞬間がたった一度のものであることが、あまりに濃密でいとおしくかなしく、そしてこの上なく幸せでした。 自分を信じることへの1歩、自由になることへの1歩を踏み出せたのは、本当に皆様の応援のおかげです。 夢から覚めるのに少し時間がかかりました。あまりに幸せな時間だったので、きっと心が手放したくなくてぎゅっと抱えこんでいたのでしょう。こんな幸せを味わってしまったらどうしたってしがみつきたくなるよね・・と、自分の心とうなずきあって、いつもの、ごく普通の日常へ戻りつつあります。 人生にこんなにもすばらしい瞬間を与えていただいたことにただただ感謝しています。